RESEARCH

神経遺伝子学教室は、RNA生物学をテーマにした遺伝子機能制御学教室と、神経細胞医科学教室が融合し、2014年4月に発足しました。2019年4月には情報解析室も整備し、情報系専任教員も着任したことで、ウェット、ドライを含めて、RNA研究、疾患病態研究をシームレスに行う体制が構築され、現在に至っています。当教室では主に以下のようなテーマに関する研究を行っています。

RNA結合タンパク質やnon-coding RNAの機能解明を目指したRNA生物学(河原、中濱)

Abstract

難病を解明するためには、様々な分野の最新の知識と技術を取り入れ、広い視野を持って対処する必要があります。当教室では、RNA代謝を切り口に疾患病態を解明する「RNA病態学」という新しい研究領域の創造と発展を目指します。そのために、RNA biologyの基礎研究に力を入れています。ヒトゲノムDNAの約80%の領域からRNAは転写されており、そのほとんどはタンパク質をコードしないnon-coding RNAです。これらは、単に「受動的発現」をしているのではなく、転写や蛋白質発現を制御する「能動的機能」を持つことが解明されてきましたが、まだ未解決な謎が多く残されています。また、これらを制御するRNA結合タンパク質も、ヒトには1,000個以上あることが最近の研究で明らかとなってきましたが、そのほとんどは機能未知です。つまり、この領域には難病を解き明かすための多くの手がかりが隠されていると予想されます。私たちの研究室では、研究対象とするRNA、RNAの修飾や機能、RNA結合タンパク質、疾患を特に制限していません。現在行っている研究は、RNA biologyの基礎研究から、microRNAを用いた疾患スクリーニング法の開発と言った応用研究まで多岐・多彩です。対象疾患も、神経疾患、循環器疾患、婦人科系疾患、自己免疫疾患など多様です。中でも、近年、RNA修飾はエピトランスクリプトームと呼ばれる研究分野として確立しつつあり、私たちは、特にRNA編集という転写後修飾の研究分野で世界を牽引しています。

2本鎖RNA中のアデノシンをイノシンへと置換するRNA編集は、哺乳類において最も普遍的に生じているRNA修飾であり、転写後にADARによって触媒されます (図1)。99%以上は非コード領域、非コードRNAに生じていますが、近年これがRNAの自己化に必須の修飾であることが判明しつつあります。このため、RNA編集の破綻は、自己免疫疾患発症へとつながります (図1)。現在、私たちは、自己免疫疾患を誘発する鍵を握るRNA編集部位の同定を進めています。

図1

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難しいからこそ難病の解明に挑んでみたいと思う意欲的な方はいつでも歓迎します。

Related publications

Nakahama et al., EMBO Rep, 2018; Oshima et al., Chem Commun, 2018; Miyake et al., Cell Rep, 2019; Matsumoto et al., Circ Res, 2013; Kawahara et al., Nat Protocols, 2012; Kawahara et al., Science, 2007など

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筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患の病態解明と治療法の確立(河原、渋谷、宮崎)

Abstract

河原はこれまで神経内科医として、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症 (ALS)、脊髄小脳変性症など多くの神経難病と闘う患者さんと接してきました。現在も、限られた時間の範囲内ではありますが、患者さんの診療を継続しており、自らの研究の方向性を決定付けています。中でも、ALSの病態解明と治療法の確立は、教室のライフワークとなっています。ALSは、運動神経細胞が選択的に脱落し、多くの場合、全身の筋力が数年で失われてしまう難病です。日本には9,000人弱の患者さんがいますが、9割に遺伝性がなく、河原が研究をはじめた頃には限られた情報しかありませんでした。しかし近年の研究技術の飛躍的な発展に伴い多くの知見が得られるに至っています。例えば、 TDP-43やFUSといったRNA結合タンパク質をコードした遺伝子に、しばしばALSと関連した変異が見つかるようになったこと (図2)や、C9orf72遺伝子のイントロン中にあるGGGGCCリピート配列の異常伸長が一部のALSの原因として発見されたことが挙げられます (図3)。これらの知見は、ALSの病態の根底にRNA代謝異常があることを示唆しています。また、これら複数の遺伝子変異が、ALSだけでなく、認知症を主症状とする前頭側頭葉変性症 (FTLD)の原因ともなることが分かってきています。これは、変性しやすい神経細胞の特徴を探る上で極めて重要な手がかりとなります。過去10年間に得られた知見の量と質を鑑みると、今後10年の間にALSの根本的な原因が解明され、治療法の道筋が立てられるかもしれません。そのためにも、従来の既成概念やアプローチ法を打破する必要性があると考えます。

図2 図3

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現在、私たちは、新たなALSのモデルマウスを作製し、発症メカニズムの研究を行っています。また、製薬会社と共同で、治療法の開発に取り組んでいます。難病を解明し、治療法へ結びつけるチャンスは以前にもまして高まっています。難しいからこそ難病の解明に挑んでみたいと思う意欲的な方はいつでも歓迎します。

Related publications

Uemura et al., Genes to Cells, 2018; Li et al., Nat Commun, 2015; Yokoshi et al., Mol Cell, 2014; Kawahara et al., PNAS, 2012; Kawahara et al., Nature, 2004など

生命の理解を目指したデータ駆動型オミクス情報解析法の開発(加藤)

Abstract

遺伝子は生命の運命を分子レベルで決定する因子の1つです。近年、ハイスループットシークエンシングに代表される実験技術の普及に伴い、遺伝子の配列が網羅的かつ大量に読めるようになったことから、全体から特定の生命現象を理解するトップダウン型の研究が可能となりました。ここで重要になるのが、ノイズを含む大量のデータからいかに有用な情報を抽出するかということであり、当教室情報系ゼミで取り組んでいる問題に共通するテーマです (図4)。そのため、情報科学や数理科学の優れた理論に裏打ちされたアルゴリズムを開発することが求められており、当教室では薬理学としてはまだ珍しい、既存のツールの枠を超えた新規手法の開発に力を入れています。もちろん、ツールを開発しただけでは「絵に描いた餅」です。当研究室はウェットの研究に重点的に取り組んでおり、マウスなどの生物からの生データ(遺伝子の配列情報など)が入手しやすい環境にあるため、開発ツールの説得力のある検証、および真に興味のある生物学的知見を得られる機会に恵まれていることが強みと言えます。

図4

Details

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今後ますますデータが蓄積されて、既存ツールの能力の限界を超えた新規解析手法を開発するスキルが重要になってくると予想されます。情報系の研究ですので、紙と鉛筆とコンピューターがあれば、時間、場所を問わずにフレキシブルに実行することができます。指導方法については、学生の自主性を尊重しながら、適宜教員との個別ゼミを行い、研究内容のディスカッションおよび進捗を報告してもらっています。学部学生が多く所属しており、学部3年次の基礎配属から研究を開始して、その後も継続するケースもあります。その中には、論文を書き上げた学生もいます。数学、生物学が好きで、簡単なプログラミング経験があり、バイオインフォマティクスのアルゴリズム開発に興味を持たれた方は、いつでもご連絡ください。若い学生の皆さんの柔軟な発想を待っています。

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Kato et al., BMC Genomics, 2017; Kato et al., Bioinformatics, 2017; Kato et al., Nucleic Acids Res, 2012など

転写因子MRTFsによる細胞骨格維持機構とその破綻がもたらす疾患研究(林、村井)

Abstract

アクチンは筋組織において筋収縮を司る主要なタンパク質ですが、非筋肉細胞においても豊富に存在し細胞の動的なイベントを制御する基本的な構造タンパク質です。アクチンタンパク質の多くは細胞内で重合し繊維状の構造体として存在しますが、このアクチンの重合・脱重に加えてモータータンパク質であるミオシンとの協調的な作用が細胞運動や細胞内の物質輸送に必要な推進力を生み出しています。このようなアクチンの機能を制御する分子として低分子Gタンパク質であるRhoファミリータンパク質が良く知られています。Rhoファミリータンパク質は細胞外からの刺激に応答して速やかに活性化され、アクチンの重合・脱重合やミオシン機能を制御しています。このような速やかで一過的な応答に対し、細胞の分化やガン化の過程ではアクチン細胞骨格の恒常的な再編成が行われており、Rhoファミリーによる一過的な制御とは別の機構が存在するのではないかと考えられていました。私たちは転写因子であるmyocardin-related transcription factors (MRTFs)が数多くの細胞骨格関連遺伝子の発現を同時に制御することでアクチン細胞骨格の再編成を引き起こすことを明らかにしてきました。現在、50以上の細胞骨格関連遺伝子がMRTFsによる発現制御を受けていることが知られていますが、MRTFsはこのような包括的な発現制御を介して実に多様な生理現象に関与しています。近年、肝硬変、間質性肺炎などの線維化疾患や心疾患、ガン、動脈硬化、統合失調症などの病態にもMRTFsが深く関与していることが報告され、これら疾患の治療ターゲット分子としても注目を集めています。私たちは、特にMRTFsの寄与度が特に高いと思われるガン細胞の転移や組織の線維化の過程に注目し、MRTFsの活性制御機構の解明やMRTFs特異的な阻害剤の開発に取り組んでいます。本研究が上記疾患の発症メカニズムの解明や治療薬の開発につながるものと期待しています。

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ガンの基礎研究や治療法開発、或いは転写因子による遺伝子制御などに興味のある方は、いつでもご連絡ください。

Related publications

Morita & Hayashi, Mol Cancer Res, 2018; Hayashi et al., Sci Rep, 2015; Morita & Hayashi, JCB, 2014など