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リレーエッセイ
「リサーチマインド」

私が医学部の3年生だった頃に、基礎配属というカリキュラムがあった。基礎医学の講座に配属されて、半年間研究をやってみるというものだ。私は微生物病研究所の腫瘍ウイルス研究室に行くことになったが、臨床医を目指していた私は、どうも研究というものに興味をもてず、1週間のうち1日くらいしか通わなかった。同じ講座に配属された他の学生も、クラブ活動に精を出して、ほとんど研究室に顔を出さなかった。3人でひとつの実験をやることになったが、何かのDNAを抽出するという作業だけで半年を費やしたと記憶している。当時はまだ牧歌的な時代だった。

大学を卒業して医師になった私は脳神経外科を専攻した。忙しく厳しい日々であったが、少しずつ成長して先輩の医師に近づいていけることを嬉しく感じていた。一方で、いまだ解決していない臨床上の課題がいかに多いかについても痛感する毎日だった。脳の病気の治療に繋がる研究をやりたいという気持ちが徐々に強くなってきた。

当時市中病院で働いていた私は、大学の医局の先輩医師に相談し、研究をやらせてほしいとお願いした。そろそろ30歳になるかという頃、私は初めて研究を志したのだ。相談相手の先輩医師は実に素晴らしい研究者で、夜遅くまで実験の指導をしてくれ、その合間に研究がどれほど楽しいものかについて語ってくれた。そうだ、研究は医学の発展に必要なのだろうけど、それ自体が楽しくエキサイティングなものなのだということに、私は気付かされることになった。30歳になった私は大学院に進み、その後は研究者に転向して、今に至っている。学生の頃、私と同じ研究室に基礎配属された3人のうち、もう一人も数年間麻酔科医を続けた後、今は研究者として活躍している。

医学部の講義で、私はいかに研究が楽しいものかということについて話をする。さらに、自分が医学部の学生の時にこのことに気付かず、貴重なチャンスを失ったことについても伝えるようにしている。私の前任地の千葉大学では、毎年数人の学生が、研究をやらせてくださいと言って私の研究室にきていた。教授室には私の机と医学部の学生用の机を置いていた。学生たちが研究を楽しみながら続け、やがて日常生活の一部となっていく過程をそばで見ているのは楽しいものだった。昨年末に、私は母校に帰る機会を与えていただき、さっそく教授室を同じレイアウトにした。まだ部屋には私しかいない。リサーチマインドをもった学生がどのような医師になっていくか、その先を見届けたい。

平成20年6月 リレーエッセイ
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