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多発性硬化症に対する新たな治療標的の発見
−RGM抗体治療薬が発症および再発を抑制−

1.発見の概要

本学医学系研究科の山下俊英教授らは、多発性硬化症 注1) の発症および悪化の分子メカニズムを解明し、マウスを用いた実験で症状を改善させることに成功しました。
多発性硬化症は、手足の麻痺や感覚障害などの重い神経症状の悪化を繰り返す難病で、比較的強い障害が残る例も多く、根本的治療法が確立されていません。これまでの研究によって、T細胞 注2) の異常な活性化が疾患の発症と悪化に影響を与えていると考えられています。
本研究グループは今回、repulsive guidance molecule (RGM) たんぱく質 注3) がT細胞の活性化を促進することを発見し、その分子メカニズムを解明しました。さらに多発性硬化症に類似する脳脊髄炎をおこすマウスに、RGMたんぱく質の機能を阻止する中和抗体 注4) を投与することで、神経症状の発症および再発を防ぐことに成功しました。この中和抗体は、多発性硬化症患者の血液中のT細胞の活性化を抑制しました。これらの結果から、RGM中和抗体は、多発性硬化症の症状を和らげるのみならず、根本的治療薬としても有望であると考えられます。
この発見は、多発性硬化症の新たな分子標的治療法の開発に繋がる成果として期待されます。
本研究は、本学医学系研究科の山下俊英教授および村松里衣子助教らが行い、さらに千葉大学大学院医学研究院の桑原聡教授、北里大学医学部の望月秀樹教授、愛知医科大学加齢医科学研究所の吉田眞理教授、大阪大学免疫学フロンティア研究センターの熊ノ郷淳教授の協力を得ました。
本研究成果は、2011年3月20日14時(米国東部時間)発行の米国科学誌「Nature Medicine」のオンライン速報版で公開されます。

2.発見の詳細

<研究の背景と経緯>
多発性硬化症は、脳や脊髄、視神経などに炎症が生じ、重篤な神経症状をきたす神経難病です。多発性硬化症のはっきりした原因はまだ明らかになっていませんが、免疫系の異常、特に、抗原提示細胞 注5) によるT細胞の活性化に異常があると考えられています。しかしながらそのメカニズムについては、不明の点も多く、今後の解明が待たれていました。一方、RGMたんぱく質は発生の途上で神経の回路形成を制御するたんぱく質として知られていました。本研究グループは、RGMたんぱく質が抗原提示細胞にも発現していることを突き止め、免疫系におけるRGMの機能を解明することを目的として、本研究を遂行しました。

<研究の内容>
本研究グループは、抗原提示細胞である樹状細胞が活性化される時に、RGMの発現が高まることを見いだしました。さらに、この樹状細胞に発現しているRGMたんぱく質が、T細胞の活性化を強めることを明らかにしました(図1)。すなわち、抗原提示細胞がT細胞を活性化する際に、RGMはその活性化を促進することを示すものです。そこで本研究グループは、マウスに実験的自己免疫性脳脊髄炎 注6) を発症させました。これは、多発性硬化症に類似する脳脊髄炎を発症する実験モデルです。このマウスにRGMの機能を中和する抗体を投与すると、脳脊髄炎による神経症状が抑えられました(図2)。この中和抗体の効果は、樹状細胞に発現するRGMに結合することで、T細胞の活性化を抑えるためであることがわかりました。また多発性硬化症は脳脊髄炎の再発を繰り返す難病ですが、このRGM中和抗体は脳脊髄炎の再発を抑制する効果も持っていました(図3)。さらに研究グループは、多発性硬化症患者から採取した血液を用いて解析を進めました。その結果、RGM中和抗体は、末梢血中のT細胞からの炎症性サイトカイン産生を抑制しました(図4)。これらの結果より、RGM中和抗体は、T細胞の活性化を防ぎ、脳脊髄炎に特徴的な炎症性サイトカインの産生を抑制することで、自己免疫性脳脊髄炎の発症と再発を防止する効果をもつことが明らかになりました(図5)。

<今後の展開>
今回の研究成果は、RGM中和抗体が多発性硬化症の治療薬として有望であることを示したものであります。今後、ヒトに有効な治療薬(ヒト型モノクローナル抗体)の開発が期待されます。

<参考図>
図1
図1:抗原提示細胞は、抗原刺激を受けて、T細胞を活性化する。RGMは抗原提示細胞に発現しており、RGMの受容体であるneogeninはT細胞に発現している。RGMは、抗原提示細胞によるT細胞の活性化を促進する。その作用はT細胞の中でRap1が活性化されることによる。
図2
図2:自己免疫性脳脊髄炎を発症させたマウスにRGM中和抗体を投与すると、発症が抑えられ、神経症状も軽快した。
図3
図3:再発性の自己免疫性脳脊髄炎を発症させたマウスに、最初の神経症状の発症がおさまった頃にRGM中和抗体を投与すると、その後の再発を予防することができた。
図4
図4:多発性硬化症の患者の末梢血単核球をPMAとイオノマイシンという薬剤で刺激すると、細胞が増殖し、脳脊髄炎に特徴的な炎症性サイトカインであるインターフェロンガンマ、インターロイキン2、インターロイキン17などの発現がT細胞内で上昇するが、これらの反応をRGM中和抗体(Anti-RGM)は抑制した。
図5
図5:抗原提示細胞に発現しているRGMは、末梢と脳脊髄内でT細胞に働きかけて、抗原提示細胞によるT細胞の活性化およびサイトカインの産生を促進する。RGM中和抗体は、RGMの機能を阻止することにより、一連の反応をブロックし、脳脊髄炎症状を緩和する。
<用語解説>
注1)多発性硬化症
中枢神経系の炎症などによって、髄鞘(ずいしょう)とそれを作る乏突起膠(ぼうとっきこう)細胞が選択的に障害される病気を脱髄性疾患と呼ぶ。多発性硬化症は代表的な脱髄性疾患で、運動障害、感覚障害、眼球運動障害、視力障害、膀胱直腸障害など、様々な神経症状の再発を繰り返す。我が国では難病に指定されており、10万人あたり8〜9人の有病者がいる。欧米の白人に多い。
注2)T細胞
白血球のうちリンパ球と呼ばれる細胞の一種。異物を認識して、これを排除するための免疫反応を開始する。
注3)RGMたんぱく質
RGMたんぱく質は神経系の細胞の膜表面に発現しており、発生の途上で神経の回路形成を制御する役割を担っていることが知られている。RGMたんぱく質は、他の細胞の膜表面に発現しているneogeninという受容体に結合し、シグナルを送ることで、他の細胞に作用を及ぼす(図1参照)。
注4)中和抗体
目的のたんぱく質に結合してその機能を抑制する効果をもつ抗体。ヒト型(ヒト化)モノクローナル抗体として、疾患治療に使われている薬剤もある。
注5)抗原提示細胞
体内に侵入してきた異物の断片を抗原として、自己の細胞表面上に提示し、T細胞を活性化する細胞。
注6)実験的自己免疫性脳脊髄炎
多発性硬化症の動物モデルとして、実験的自己免疫性脳脊髄炎が知られている。ミエリンオリゴ糖たんぱく質などの特定のたんぱく質をマウスに注射すると、多発性硬化症に似た脳脊髄炎を発症する。
<論文名>
"RGMa modulates T cell responses and is involved in autoimmune encephalomyelitis"
(RGMaはT細胞の反応を制御し自己免疫性脳脊髄炎に関与する)

3.本件に関する特記事項

●情報解禁日  平成23年3月21日 午前3時
(アメリカ科学雑誌Nature Medicineに指示される解禁時間の日本時間)

4.本件に関する照会先

山下 俊英(ヤマシタ トシヒデ)
 大阪大学 大学院医学系研究科 教授
 〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2-2 Tel:06-6879-3661 Fax:06-6879-3669

大阪大学
 Tel:06-6879-3278(医学系研究科 総務課)

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