寄附講座

肥満脂肪病態学

メタボリックシンドロームの発症機構を脂肪組織病態学とアディポサイトカイン学の観点から解明する
  • 肥満の脂肪組織の病態学的変化の解明
  • 脂肪細胞が産生するアディポサイトカインの生理病態学的意義の解明

脂肪細胞の生体恒常性維持機構と、その破綻による代謝性疾患の発症

脂肪細胞は、エネルギーが余剰な時には蓄積し、欠乏時には放出することで、摂食や絶食・飢餓によって栄養状態が変化しても、生体の恒常性を維持する役目を果たしています。ところが、現代の日本では摂取カロリーの増加や運動不足によって、余剰なエネルギーが脂肪細胞へ流入し、蓄積され続けています。その結果、本来脂肪細胞がもつ生体恒常性維持機構が、糖尿病や脂質異常症の病態形成に寄与し、メタボリックシンドロームが発症します。このように、本来の脂肪細胞の生理機能と、その破綻による肥満病態形成の両者を解明することが生活習慣病の克服に必要です。肥満の脂肪組織の病態解析とアディポサイトカインの機能解析を中心に研究を行っています(図)。

1)肥満の脂肪組織の病態解析
肥満の脂肪組織は活性酸素種(ROS)産生酵素が増加し、抗酸化酵素の発現量や活性が低下することで、酸化ストレス状態となっています(1)。その結果、肥満症例や肥満マウスでは脂肪組織酸化ストレス(FatROS)が増加しています。FatROS増加によって脂肪細胞が産生するアディポサイトカインの制御異常やインスリン抵抗性が誘導されます。また、FatROS増加によって脂肪酸合成酵素が抑制され、皮下脂肪組織への中性脂肪蓄積は低下し、内臓脂肪蓄積や脂肪肝が増悪し、インスリン抵抗性となります(2)()。
肥満の脂肪組織では、脂肪細胞サイズの増大に血管の増加が追いつかないため、灌流低下による低酸素状態となっています(3)。低酸素状態の脂肪細胞ではアディポサイトカインの制御異常やインスリン抵抗性が誘導されます。
TregはエフェクターT細胞を抑制し、免疫反応を制御するT細胞です。脂肪組織にはTregが多く存在しますが、肥満では減少します。脂肪組織Tregの分化・増殖には脂肪組織マクロファージ関与しています(4)。また、EPA(エイコサペンタエン酸)の代謝物によってTregの分化・増殖が誘導されます(5)。

2)アディポサイトカインの機能解析
脂肪細胞が産生するSDF-1は脂肪細胞自身のインスリン感受性を抑制しています(6)。空腹時や肥満状態ではSDF-1が増加し、脂肪細胞の糖取り込みを抑制します。肥満では脂肪細胞が産生するSDF-1の増加によってインスリン抵抗性が誘導されます(http://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2018/20180409_1)。
Favineは脂肪細胞と血管が産生する分泌因子です(7)。Favineは脂肪細胞分化と中性脂肪蓄積を増加させる作用があります(8)。Favine欠損マウスは痩せており、加齢に伴う脂肪肝が軽減します。
脂肪細胞が産生する善玉アディポサイトカインであるアディポネクチンは、血管内皮に発現するTカドヘリンと特異的に結合します(9)。アディポネクチンがTカドヘリンに結合すると、内皮細胞が産生するエクソソームは増加します(10)。エクソソームは様々な因子を内包しており、アディポネクチンはエクソソーム産生促進によって血管の恒常性維持に寄与する可能性があります()。

 


文献
1. Furukawa S, et al. J. Clin. Invest. 114 (12): 1752-1761, 2004.
2. Okuno Y, et al. Diabetes 67 (6): 1113-1127, 2018.
3. Hosogai N, et al. Diabetes 56 (4): 901-911, 2007.
4. Onodera T, et al. Sci. Rep. 5 16801, 2015.
5. Onodera T, et al. Sci. Rep. 7 (1): 4560, 2017.
6. Shin J, et al. Diabetes 67 (6): 1068-1078, 2018.
7. Kobayashi S, et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 392 (1): 29-35, 2010.
8. Kobayashi S, et al. J. Biol. Chem. 290 (12): 7443-7451, 2015.
9. Fukuda S, et al. J. Biol. Chem. 292 (19): 7840-7849, 2017.
10. Obata Y, et al. JCI Insight 3 (8): e99680, 2018.

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