教授リレーエッセイ

「いちびり」を育てたい 保健学専攻 医療技術科学分野 医用物理工学講座(薬理学) 大和谷 厚

保健学専攻
医療技術科学分野 医用物理工学講座(薬理学)
教授 大和谷 厚

「いちびり」とは、「調子に乗って、はしゃいだりふざけたりする人」のことで、 関西以外の出身の方には、その意味が伝わりにくい言葉の一つです。関西出身の方は 小さいときから、親や先生から「いちびっとったらあかん」とか、「なにいちびっと んねん」と叱られたことがあるかもしれません。

この「いちびり」は、「いちぶる(市振る)」が語源です。江戸時代の風俗、事物 を説明した一種の百科事典の『守貞漫稿』に、「大坂も雑喉場問屋にては、一夫台上 に立ち、魚籃一つ宛を捧げ、さあなんぼなんぼと云ふ。此時、大坂市中魚賈群集し、 欲するところの価を云ひ、其中貴価なる者に売与す。これを、市を振ると云ふ」と あり、「市振り」は、競り市で値段の決定をする人のことであり、セリ市でやかましく 騒ぎ立てることから「いちびる」という言葉が生まれたようです。転じて、調子に 乗って悪ふざけをする、つけ上がってはしゃぐ人を揶揄し、ネガティブな意味合いの 言葉に使われることが多いのですが、この語源から、特に大阪ではリーダーシップを 発揮する人、周りに人が集まってくる人、味があり面白い人をさして、「あの人は、 なかなかのいちびりや」とポジティブな意味でも使われます。

大阪大学は、「地域に生き世界に伸びる」をモットーに、「教養・デザイン力・ 国際性」を教育目標とし、確かな基礎学力と専門知識をもつ「市民社会でのしなやかな 専門家」を育成しようとしています。保健医療の分野で日本のリーディングスクールを 自負する阪大薬理学は、医療の世界での「阪大スタイルのしなやかな専門家」、 つまり、社会的教養と健全な判断力により常に広い視野の中で適切な行動を選択 できるCommon Senseをもち、同時に、Common Senseに適切な懐疑心をもち、 常に自己を振り返り検証し、医療実践や医学研究でコアとなり、何でも率先して 実行し活躍できるリーダーシップを備えた人材、つまり「命を守り、命を育む」 ミッションを胸に、市民社会におけるコアとなる「なかなかのいちびり」を育てて 行きたいと思います。
大阪大学薬理学のルーツである適塾を開いた緒方洪庵は「なかなかのいちびり」 だったのではないでしょうか。