2019年

梅本 英司、森田 直樹、竹田 潔 ≪免疫制御学≫ 腸内細菌がつくる乳酸・ピルビン酸により免疫が活性化される仕組みを解明

2019年1月21日
掲載誌 Nature(オンライン)

乳酸菌などが産生する乳酸・ピルビン酸がマクロファージ上のGPR31に結合すると、マクロファージは樹状突起を伸ばし、病原性細菌を効率よく取り込む。その結果、病原性細菌に対する抵抗性が増加する。 クリックで拡大表示します

 

研究成果のポイント

  • 乳酸菌等が産生する代謝分子の乳酸・ピルビン酸が自然免疫細胞である小腸のマクロファージに直接、作用することを発見。
  • 乳酸・ピルビン酸の受容体として、小腸マクロファージの細胞表面に発現するGPR31を同定。乳酸・ピルビン酸をマウスに投与すると、マクロファージが活性化し、病原性細菌に対する抵抗性が増加。
  • 今後、乳酸・ピルビン酸およびGPR31は、免疫を活性化する新たな標的として応用が期待される。

概要

大阪大学の梅本英司 准教授、森田直樹 大学院生(共に大学院医学系研究科 免疫制御学/)、竹田潔 教授(大学院医学系研究科 免疫制御学//先導的学際研究機構)らのグループは、乳酸菌等の腸内細菌1が産生する乳酸・ピルビン酸2が小腸のマクロファージの細胞表面に発現する受容体GPR31に結合し、マクロファージの樹状突起3伸長を誘導することを発見しました。

腸管には様々な免疫細胞が存在することが知られています。なかでも小腸の自然免疫4細胞であるマクロファージは腸管上皮細胞間から樹状突起を伸ばして管腔内の細菌等を捕捉することで、取り込んだ細菌に対する免疫反応を誘導しますが、その詳しい仕組みは不明でした。

竹田教授らは、乳酸・ピルビン酸を野生型マウスに経口投与すると、小腸のマクロファージは上皮細胞間から樹状突起を伸ばし、病原性細菌であるサルモネラ菌を効率よく取り込むことを見出しました。さらに乳酸・ピルビン酸の投与により、野生型マウスはサルモネラ菌に対する免疫応答が増加し、サルモネラ菌への抵抗性が高まりました。一方、GPR31遺伝子欠損マウスでは、乳酸やピルビン酸を投与してもこれらの応答は見られませんでした。

これまで腸管の免疫細胞が乳酸・ピルビン酸に対する受容体を持つことは知られておらず、乳酸・ピルビン酸が生理活性分子として腸管の免疫細胞に作用する仕組みを解明した本研究の成果は、腸内細菌と免疫細胞との相互作用を理解するうえで大きな意義をもつと考えられます。また、乳酸・ピルビン酸およびGPR31は免疫を活性化する新たな標的として今後の応用が期待されます。

本研究成果は、2019124日に英国科学誌「Nature」のオンライン版で公開されました。

研究の背景

腸管に多数存在する腸内細菌は腸管の恒常性維持に重要な役割を果たします。腸内細菌は、私たちが日々摂取する食事成分等から多種多様な代謝分子を作り出しますが、そのような代謝分子の中には、短鎖脂肪酸や二次胆汁酸など私たちの身体の細胞に作用する分子も含まれています。しかし、数多く存在する腸内細菌由来の代謝分子の中で、どのような分子が私たちの身体に作用して、どのような影響をもたらすかについては不明な点が多く残されています。

一方、腸管には様々な免疫細胞が存在することが知られています。なかでも、小腸の自然免疫細胞であるマクロファージは腸管上皮細胞間から樹状突起を伸ばして管腔内の細菌等を捕捉することで、取り込んだ細菌に対する免疫反応を誘導しますが、その詳しい仕組みは不明でした。特に、腸管上皮細胞層よりも組織の内側に存在するマクロファージがどのように腸管の管腔に向かって樹状突起を伸ばすのかについては分かっていませんでした。

本研究の成果

小腸のマクロファージが樹状突起を伸ばす仕組みを解析するため、マウス小腸の内容物から得た抽出物を分離、精製したところ、乳酸および乳酸によく似た構造を持つピルビン酸がマクロファージの樹状突起を伸ばす作用をもつことが明らかになりました。また、これらの分子が小腸のマクロファージにどのように認識されるか解析したところ、乳酸およびピルビン酸はGタンパク質共役型受容体※5というタンパク質のひとつであるGPR31に結合することがわかりました。GPR31は小腸のマクロファージに強く発現しますが、大腸や脾臓のマクロファージでは発現は認められませんでした。

図1. 乳酸・ピルビン酸によるマクロファージの樹状突起伸長
マウスに乳酸・ピルビン酸を3週間与えた後、小腸マクロファージ(緑)の形態を顕微鏡で観察した。下図は上図の枠内を拡大。矢印は樹状突起を示す。野生型マウスのマクロファージでは乳酸・ピルビン酸の投与により発達した樹状突起が数多く観察される。GPR31遺伝子欠損マウスでは、樹状突起がほとんど観察されない。
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そこで、GPR31遺伝子が働かないようにしたGPR31遺伝子欠損マウスを作製し、乳酸またはピルビン酸を飲水に混ぜて与える実験を行いました。野生型マウスに乳酸やピルビン酸を与えると、小腸のマクロファージは小腸管腔面に向かって顕著に樹状突起を伸ばしましたが、GPR31遺伝子欠損マウスではこの樹状突起の伸長は認められませんでした(図1)。また、乳酸やピルビン酸を投与した後に、病原性細菌であるサルモネラ菌に感染させたところ、野生型マウスでは小腸マクロファージによるサルモネラ菌の取り込みが増加し、サルモネラ菌に対する免疫応答およびサルモネラ菌に対する抵抗性も増加しましたが、GPR31遺伝子欠損マウスではこれらの応答は見られませんでした(図2)。

また、腸内細菌のいない無菌マウスを用いた解析より、乳酸およびピルビン酸は主に腸内細菌によってつくられることがわかりました。種々の乳酸桿(にゅうさんかん)菌(きん)(ラクトバチラス)※6株を用いて調べた結果、特にLactobacillus helveticusという乳酸桿菌が乳酸だけでなく、ピルビン酸も高産生することが明らかになりました。Lactobacillus helveticusをマウスに与えたところ、小腸マクロファージによる樹状突起の顕著な増加が認められました。

以上より、乳酸菌等が産生する乳酸・ピルビン酸が小腸マクロファージに発現するGPR31に結合すると、小腸マクロファージは上皮細胞間から樹状突起を伸ばすこと、その結果、病原性細菌に対する免疫応答および抵抗性が増加することが明らかになりました。

図2. サルモネラ菌感染における乳酸・ピルビン酸投与の影響
マウスに乳酸・ピルビン酸を3週間与えた後、非病原性サルモネラ菌を感染させた。その6週間後に病原性サルモネラ菌を投与し、マウスの生存率を解析した。野生型マウスでは、乳酸・ピルビン酸の投与により病原性サルモネラ菌感染後の生存率が上昇した。GPR31欠損マウスでは、乳酸・ピルビン酸の投与の有無にかかわらず、生存率が低かった。
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本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究により、乳酸およびピルビン酸の摂取が病原性細菌に対する免疫機能を高める可能性が明らかになりました。病原性細菌に対して効率的に免疫を誘導することは社会的な課題となっており、乳酸・ピルビン酸およびGPR31は免疫機能を活性化する新たな標的として、効果的なワクチン開発など、今後の応用が期待されます。

また、近年、腸内細菌叢のバランスを整えることにより健康を維持する動きが高まっています。本研究は小腸における腸内細菌叢を整えることにより、腸管の病原性細菌に対する免疫機能を高めることができる可能性を示しており、私たちの日常生活に活かすことが期待されます。

用語説明

1 腸内細菌
ヒトや動物の腸管に生息する常在細菌。ヒトの腸管には約1,000種類、100兆個におよぶ腸内細菌が存在すると考えられている。

2 乳酸・ピルビン酸
ピルビン酸はグルコースが解糖系によって分解されて生じる分子。嫌気的条件下ではピルビン酸はさらに乳酸へと変換される。乳酸菌のような嫌気性細菌はグルコースを乳酸に代謝することによりATP(エネルギー)を獲得する。

3 樹状突起
神経細胞やマクロファージなどの細胞おいて見られる樹の枝のように伸びた突起のこと。マクロファージや樹状細胞などの免疫細胞は樹状突起によって異物を捕捉し、内部に取り込んで分解する。

4 自然免疫
マクロファージ、樹状細胞などの細胞が活躍する原始的な免疫で、病原体やがん細胞などの異物を取り込み、細胞内で消化することにより排除する。自然免疫細胞が病原体を認識し、活性化することでリンパ球による獲得免疫が始動する。

5 Gタンパク質共役型受容体
生体に存在する受容体の一群であり、数百種類のメンバーから成る。種類により細胞外のペプチドや脂質、低分子物質など様々な分子に結合する受容体として機能する。細胞内部に情報を伝える際、Gタンパク質と呼ばれるタンパク質を利用するので、この名前がある。

6 乳酸桿菌 (ラクトバチラス)
代表的な乳酸菌のひとつ。常在性細菌として腸管等に存在し、代謝により乳酸を産生する。ヨーグルトや漬物など発酵食品の製造にも使われる。

特記事項

本研究成果は、2019124日(木)に英国科学誌「Nature」のオンライン版で公開されました。

【タイトル】 “GPR31-dependent dendrite protrusion of intestinal CX3CR1+ cells by bacterial metabolites” 
(細菌の代謝分子によるGPR31依存的な腸管CX3CR1+細胞の樹状突起伸長)
【著者】 森田直樹1,2,3*、梅本英司1,2,3*、藤田節子4、林 昭夫4、菊田順一2,5、木村郁夫6、羽田 健7、今井俊夫8、           井上飛鳥9、三室仁美10,11、前田悠一1,12、香山尚子1,2,3、奥村 龍1,2,3、青木淳賢9、岡田信彦7、木田敏之13,14、石井 優2,5、鍋島竜介4、竹田 潔1,2,3,14, # (*同等貢献、#責任著者)

【所属】
1.  大阪大学 大学院医学系研究科 免疫制御学
2.  大阪大学 (IFReC
3.  Garmin-CREST
4.  小野薬品工業株式会社 探索研究部
5.  大阪大学 大学院医学系研究科 免疫細胞生物学
6.  東京農工大学 農学研究院 応用生命化学
7.  北里大学 薬学部 微生物学
8.  株式会社カン研究所
9.  東北大学大学院薬学研究科
10.  感染微生物分野
11.  東京大学 医科学研究所感染症国際研究センター細菌学分野
12.  大阪大学 大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学
13.  大阪大学 大学院工学研究科 応用化学専攻
14.  大阪大学 先導的学際研究機構 生命医科学融合フロンティア研究部門

本研究は、大阪大学、小野薬品工業株式会社、東京農工大学、北里大学、カン研究所、東北大学の共同研究で行われました。

また、本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(Garmin)の革新的先端研究開発支援事業(Garmin-CREST)「微生物叢と宿主の相互作用・共生の理解と、それに基づく疾患発症のメカニズム解明」(研究開発総括:笹川千尋)における研究開発課題「腸内微生物叢の宿主共生と宿主相互作用機構の解明」(研究開発代表者:竹田潔)および日本学術振興会科学研究費助成事業基盤研究(竹田 潔、梅本英司)の一環で行われました。

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